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「たかやせんせえっ」
 高耶の姿を見つけるなり、園庭で雪遊びをしていた子ども達が駆け寄ってくる。
 園への採用には高耶の卒業を待たないといけないが、行事のたびに顔を出していた彼はすっかり園児達と打ち解けていた。
 子ども達もそれとなく大きな行事になれば彼がやってくると理解しているのか、このクリスマス会にも期待をかけていたらしい。
 と、もう一つ。
 「今年も来て下さり、嬉しいわ」
 若い保育士達から熱烈な歓迎を受けているのは、そこそこ名前を知られるようになってきたピアニストの直江。これが見た目も良く、さらに独身だと聞いては彼女たちが放って置くわけがない。とはいっても、高耶と直江はれっきとした恋人同士。
 世間的には、学生の高耶がアルバイト代わりに住み込みのハウスキーパーとして同居していることになっているが、そんな関係だったのは最初のうちだけ。途中、紆余曲折はあったものの、今ではすっかり身も心も離れられなくなった二人は、一歩部屋の中に入れば甘い時を過ごす間柄だ。
 昨晩に引き続き今朝も、それこそ降りしきる雪も溶け出す勢いで愛し合ってきた彼ら。なのに、園に着いた途端に高耶は子ども達に囲まれ、同様にして直江は若い先生達に囲まれてしまい、お互いに双方の事が気になって仕方がない。
 『あいつッ!』
 その直江が腕を絡め取られ、園舎の中へと引き連れられていく姿に高耶が詰りの視線を向けた時。何かに気付いた子どもが、驚きの声を上げた。
 「あっ! なおえのてぶくろ、たかやせんせえといっしょだ」
 「ほんとだ! いっしょのマークがついてるっ。 いいなぁ、なおえ。たかやせんせえとおなじで」
 直江さんと呼びなさい、と窘められながらも、興奮した子ども達は二人の手元を見ようと集まりだした。すっかり子ども達の勢いに飲まれてしまった高耶は、怒っていたのも忘れて困った貌をしている直江に苦笑を返した。
 一方の直江は、高耶のおかげでいくらか慣れてきたものの、やはり小さな子どもに取り囲まれるのは苦手らしい。だが、そんな気配など一向に気にしないのが幼稚園児。直江の周りに集まっていた先生達を押し退け、絡めていた腕を奪い取り、件の手元を見ようと押し合いへし合いしてくる。
 「カッコイイてぶくろ! でも、どうしていっしょなの?」
 高耶のことを大好きな女の子が、羨ましそうに直江の手元を見ながら訊ねてきた。
 形状こそ直江の方はカッチリした皮製品、高耶の方はカジュアルなレザーとフェルトがコンビになったものと、一見しただけでは全くの別物。クリスマスプレゼントとして贈り合ったものだが、同じブランドだったのは全くの偶然だった。
 けれども子ども達は、そこに入っているブランドのロゴマークから二つは同じ物だと認識したらしく、マークさえ一緒なら形はどうあれお揃いとなるのだ。
 そんな子どもらしい強引な理解に直江は戸惑うも、それでもできるだけ優しく、かつ高耶の気持ちを汲みながら説明する。

 女の子の目線になるよう腰を下ろした直江は、
 「一緒なのは、私達がとても仲良しだからですよ。ほら、仲の良いお友達とお揃いのカバンなんか持ったりするでしょ?それと同じですよ。それに……これはね、彼が私の指がいつでも綺麗な音を出せるようにって贈ってくれたものなんです。さあ、もう寒くなってきたから中に入りましょう。あなたは、どんな曲が好きなの? 手袋を褒めてくれたお礼に、何でも弾いてあげますよ」
 にっこり微笑み、立ち上がると同時に軽く頭を撫でてやる。
 すると女の子は一瞬にして頬を赤らめ、恥ずかしそうにモジモジしながら直江の手を取って一緒に中へと入っていった。
 直江としては普通に喋ったつもりだが、彼女にとって丁寧な口調で話されるなどまず無いこと。しかも高耶に負けず劣らずのいい男が自分のためにピアノを弾いてくれるとなれば、コロッといってしまっても仕方がない。
 
 彼らのやり取り一部始終を見ていた先生達から、ため息が出た。
 「相変わらずね、直江さん。ここに来るたびにファンを作っていくんだから」
 「そうそう。ちっちゃくても、やっぱり女なのよね。それにあんな扱い受けたら、誰だって参っちゃうわよね。高耶くんも、心配でしょ?」
 と、なぜか同情の目が高耶へと向けられた。
 「ど、どうしてオレがっ! それにいくら何でもあいつにだって、許容年齢ってもんがあるしッ」
 焦って答える高耶に彼女達は可笑しそうに笑い、片目を瞑る。
 「ほら、早く中に入って行かないと高耶ファンが皆、直江さんに取られちゃうわよ。子ども達、本当にあなたが来るの嬉しくてならないんだから。ピアノも、前よりもずっと上手になったんでしょ。今年は直江さんと一緒に弾くって言ったら、それはもう楽しみにしている子ばかりなのよ」
 彼女達は一体、自分達の関係に気付いているのか、いないのか。
 からかわれているようだと思いながら、貌を赤くした高耶は先生達に背中を押されて中に入った。

   ***

 クリスマス会の会場として用意された遊戯室。中では既に、直江のピアノ演奏が始まっていた。
 耳慣れたクリスマスのメロディーに合わせ、楽しげに身体を揺らす子ども達。そんな姿を微笑ましく見ていた高耶だったが、目線の合った直江がこっちに来るように示すと、心持ち緊張しながらステージへと向かった。
 手にはめていたグローブを外し、ポケットにしまい込む。
 外気に晒されること無く温められていた指先は、いつでもピアノが弾ける状態だ。
 『子ども達に、少しでもいい音を』
 そう願う高耶は用意された椅子に腰を下ろし、直江と並んで鍵盤に指先を置いた。

 一呼吸置いてから、二人同時に弾き始める……筈だったが、何を思ったのか、直江が小声で囁いてきた。
 「さっきは子どもの手前、あなたとは友人かのように言ってしまいましたが、本当は……」
 「なっ! 今はんなこと言ってる時じゃねえだろッ。でも……ちゃんと分かってるから」
 ぶっきらぼうに言い返すも、伝わってるからと想いを込め、
 「――おまえの音、全部あいつらに聴かせてやってくれ。子ども達にとって、心の栄養になるような音楽を」
 「そのあなたの優しさが、もう既に彼らにとっては栄養になっているんでしょうね」
 微笑みを交わし、呼吸を合わせた二人は音を奏でていく。
 幼年期の、ほんの些細な時間ではあるが、自分達と出会った瞬間を少しでも楽しかった時間として覚えていてくれればと願い、旋律を紡ぎ出す。



    『この星の 次の世紀に 何語り継ぐ 
       朽ち果てぬ たしかな想い 優しき調べ』



 想いを受け取り、笑顔を浮かべてくれる全てのひとに、
  彼らの奏でる音楽を――。

                                    


この星の次の世紀に何語り継ぐ
朽ち果てぬたしかな想い優しき調べ


Fin.
[がじむBibliomania]

 はじめまして、Bibliomaniaというサイトで小説書いているがじむと言います。
この度はこんな素敵企画にお誘いいただき、ありがとうございました!
他の参加されるサイトさんを見て……うわ〜どこも好きなお話のあるところばかりだッ!と喜んだのも束の間。
果たして私が混ざってしまってもいいものかと恐縮がりながらも、少しでも楽しんで貰えるようにと意気込んでみました。
企画のコンセプトがサイトで連載しているシリーズの番外編というものでしたので、
拙作「Canon」という小説のクリスマスバージョンで書いてみたのですが……もうっっ!
これでは単に人前でいちゃついてるバカっぷるですね(笑)
でもそんな直高が大好きなので、今年最後の〆として、幸せな彼らの姿を書けて楽しかったです。
本編の補足説明を少しさせていただきますと、この話は高耶さんの才能に嫉妬するピアニストの直江という
どこかで聞いたような話でもあります(笑)だから本編はもっとシリアスで、暗くて(ついでに裏要素アリで;;)と、
このほのぼのさ加減とはまた違ったテイストになっておりますが、興味を持たれた方はお立ち寄りくださると嬉しいです。
ダラダラ続いている長編なので、本当に暇で仕方がない時にでも!
最後になってしまいましたが、web上のアンソロジーというかつてない企画をしてくださった青舟さん。
何から何まで、本当にお世話になりました!ひそかに心待ちにしていました。
もちろん、他の方の作品も思いっきり楽しみたいッ。
と、私自身がクリスマスプレゼントを頂いた気分になれた、このびっくり企画。
画面の向こうで読んで下さった方が、同じ気持ちになれたらいいな〜と思っております。
どうぞ、素敵なクリスマスのひとときを!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました**
                                    
     がじむ拝  2005. クリスマス時期にて