手
鎖
心
中
さあさいきませうかこのふかくのうみへ
こわれぬようはなれぬようこのてをしつかりとつなひで
え―っと……ひさしぶり、だな。 なんか……ああ、迷うな。 言いたいこといろいろあったんだけど、いざ…ってなると何から話していいか分かんなくなんね?こうやっておまえと向かい合って話すのって久々だから。 え? ああ、大丈夫。誰もいない。――オレ達二人きりだ。 なんだよ、そりゃ忙しいさ。 何か大きな波から逃げるように、戦うように、みんなバタバタしてる。 おまえだって分かってるだろ?ひっきりなしに誰かに呼ばれてさ。 おかしいって思ったか?オレが赤鯨衆でやってたこと。 ただの戦ごっこのガキ大将気取って、怨霊同士。結果がでても誰の得にもならない、ままごとみたいな時間潰しを現実から逃げて先導してる――そう、思われても仕方ないよな。 でもな、あの間、オレ生きてることを実感しちまった。何度も何度も。 ……なぁ、なんであんましゃべんない。 やっぱり怒ってるか?大転換なしちまったこと。 裂命星を延命に使わなかったこと――。 え? 死にたがってる? バカ。んなワケない。 ……ふっ、そいやおまえ死にたいって言わなくなったな。 いつから逆転したんだろうな、オレと。 音もなく冷えた芦ノ湖の鏡の中で―― すべての想いも歴史も燃え上がる萩城で―― おまえはいつも死にたがっていた。終わりにしたがってた。オレと心中したがってた。 400年だもんな……こんな変な状態で生きるには長かったよな。きつかったよな。 だから、オレはあの阿蘇の火口で終わりにしようと思ったんだ。なのに――生きてしまった。 でもチャンスはまだあった。 いやいや、よく死ななかったもんだよな、あんだけやって。あ、ここ笑うとこだぜ?よろしく。 いつからかな。 やっぱこの体が毒出すようになってからかな。 今なら分かるんだ、死への憧れってヤツが。 普段、見ないよーになってんだよ、その日その日の地面を歩いていくだけに神経尖らせてっから。 そりゃガキんときはさ、ずっと仲間と言ってたぜ?「たりー。死にてー」って。 ……あ。 またそんなふうにガキあやすみたいな顔しやがって。 すかしたよーに笑うなって。おもしくねーぞ、一人、大人みたいにしやがって。 でも、記憶思い出してからは、たとえ冗談でも口にすることを、見えないためらいがとめた。 誰が言っても、オレ達は言っちゃいけないだろう?換生者である、オレ達は。 でもダメなんだ。 一度終わりを見ちまうとダメなんだよ。 虚無と怠惰が交差する霧の牢獄で―― 泣いたら届きそうなくらい近くにあった月の足摺岬で―― いつ終わってもおかしくない激しい攻防戦の中で―― ああ、そうだ。あのときもあのときも死にたがってたのはオレの方だった。 はは、なんだよ。 オレ達って結構合ってなくね? おまえはもう死にたくないんだろ?オレと生きていきたいんだろ? ちぇ、こんなバラバラじゃ心中もできねーだろーが。 芦ノ湖でおまえオレに聞いたよな。「もう終わりにしてもいいか」って。 あのとき本当は答えたんだぜ。 「いいぜ」って。 おまえの400年間にピリオド打ってやるって。もう羽ばたくことさえ泥油にまみれてつらいなら。一緒に呼吸をふと忘れてしまうことくらいしてやっから。 昔はさ、男女が心中するとき、お互いの手首を赤い紐で縛って一緒に川に身投げたんだとさ。離れないように。……って、こんな話ならおまえの方がよく知ってんよな。 ……え? ――ああ、本当だ。 来た。 やっぱあんまゆっくりできなかったな。でもしゃーねーな。オレ達には赤い紐なんて必要ねーだろ?縛らなくても一緒だもんな。 「仰木隊長」 ほら、近づいてきた。ドアの向こうすぐ。ここにいることバレたかな。あ、開けられる。 「――ここでしたか、高耶さん」 タイムアップ。 じゃ、行こうか景虎―― |
「ふたり」・終