「大谷資料館前」で下車してもいいが、せっかくなので「大谷観音」でおりてみる。
 おりて左手へ少し進むとつきあたり右手に大谷寺がある。観音はここにいる。


 ……だいぶ風景が変わってきた。唐人駄馬?
 平たい、緑の豊かな……



おかしくないか。

 まてまて、ちょっと遠近感がおかしくなる光景があちこちにある。見上げるとくらくらする。
 大谷観音は、弘法大師が洞窟に刻んだという、日本最古の石仏。火山灰が積み重なった岩…岩?に彫られた観音様。
 ……ここも……弘法大師か……。
 飛びすぎだろ、弘法大師。観音は堂内岩壁に彫刻されています。5メートル級。
 日差しが眩しいほどになってきたせいか、中はたいへん涼しい。
 チケットで宝物館も入れます。約11,000年前の縄文最古の人骨があります。まじで。



 大谷資料館こんな。
 宝物館を出て、さっきのつきあたりをもう一本の道のほうへ。10分ほど歩いたところに資料館はあります。

 小さい? いやいや、本領はこの地下にあるのです……入りましょう。



休憩所もおかしいだろう。


 これは……崩れたらどこかの主従が支えてくれる岩盤だ。
 みっちりつまっていた岩を何十メートル切り取ったんだよ!!車がミニカーに見える。
 さあ、資料館の中に入ってみましょう。入館は16時まで。はやい。すでにぎりぎりなのでちょっと焦る。
 が、特にせかされることなくパンフレットをもらう。入館料800円。
 地下採石場に入った瞬間、ぎょっ。









なんじゃーこりゃーーーーーーーー


 宇都宮とか栃木とかすっかり飛ぶ。古代遺跡か! 外国旅行のパックか!
 中はひんやり。鍾乳洞みたいな感じだ。5月だけどたぶん10度ぐらい。ストールを巻く。
 広い! 暗い! ひんやり! 綺麗!
 日本じゃないみたいだ……。
 外の遺跡っぷりもすごかったが、地下もまたはんぱなく遺跡。なんだこれなんだこれとくりかえすだけの世界不思議発見レポーター(役たたず)。遺跡ではなく地下30メートルの採石場なのだが…。リアルに世界不思議発見レポーター体験ができます。
 しびれるぐらいかっこいい。なんでこんなところがあまりピックアップされていないのか不思議なぐらい。もっと押していいのに…謙虚だ。宮っこ。
 採掘場ってことは、つまりこの空間ももともとみっちり石が詰まっていた、というわけ。
 説明によると、昭和34年頃まで手掘り……あの主従が昭和編の頃はまだこれを手堀り……。
 四時半は過ぎたがとくにせかす気はないらしい。
 他の人たちもいるのに甘えて、みんなのんびり(という言葉があまりふさわしくない驚きの連続なのだが)見ている。
 涼しい。鍾乳洞の水っけをぜんぶ排除した感じなのか。
 繊維状のきらきらしたもやもやがある。潰すとさらさら砂となる。
 何千年もの前の石がまだこんなにたもっているのか。
 そして砂となるにはどれほど時間がかかるのだろう。ちょっと37巻冒頭の直江に思いを馳せる。
 長袖の上からさらに上着を羽織る。サンダルの素足が冷たくなってきた。確かに夏場でも半袖一枚では辛そうだ。






なんだかすごいゼオライト(きらきら)の説明と、すごく軽い大谷石。

 そう、これが駅前の餃子とカエル像のもとになった石です。
 出るころにはすっかり大谷石のファンに……おおや……いい……おおぎたかやに似てるし……(?)
 「すんごいなー……」「いいところ来たなー……」とぼんやりしながら帰る。

 でも宇都宮に来た気がまったくしない。

 なんだろう、この日本ですらちょっとなかった感。

 さて。宇都宮といえばバーの街。カクテルの街。
 始めそれを知って「宇都宮って、ちょっと田舎で餃子ばっかり有名なところじゃないのか!!!」と思ったのが今回のきっかけなので、夜が更けるにしたがって私たちの期待も高まります。
 さて、どこに行きましょうか。



まずは宇都宮牛で軽く腹ごしらえ。


 1件目「プチ プレリ」
 そういえばお土産も買わないといけなかったと、昼に行った宮カフェに。
 二階がダイニングバーのようになっています。とりあえずここで夕食。宇都宮、餃子は別としてお土産もあんまり押してないよね…謙虚。
 季節なのか、宇都宮しいたけ押しであった。しいたけ苦手なので宇都宮牛(初めて聞いた)のハンバーグを。
 もうこの時点で宇都宮好きに度があれこれふくれあがっているので
 つけあわせの玉ねぎが焼かれているところとか、マッシュポテトがちゃんと人の手が地味に入った味であることとか
 日本酒のびんごと全部もってきてくれたこととか、おもてなしの心…っと呻く。義明さんやー、天然の義明さんやー。
 バーらしく、カクテルもいくつかあります。サケティーニとサケトニック。宇都宮の地酒・澤姫でさらっと。主張しない味だな…喉越しがさらっと。うまいより先に飲みやすいが先にたつ。
 お土産屋の上ってだけであんまり期待していなかったんだけどつけあわせまでちゃんとおいしい。やるな。
 宇都宮牛は、あらびきでちょっと固めででもしっかり旨みが。どっかの体格だけみれば西洋人を彷彿とさせるがその物腰ゆえに必要以上に威圧感をあたえることはないサバイバルスーツの男をほうふつと……もういいですか。



2件目、「パイプのけむり」


 大通りや商店街、川沿い、宇都宮にはバーがたくさん。
 駅前にあったカクテルマップ片手に、どこに行こうか迷いつつ。
 あ、マップは宇都宮カクテル倶楽部が作っているので、老舗メインに30か所程載っていますが、もちろん載っていないところも街にはたくさんあります。
 我々は、せっかくなのでオーセンティックなところがいいよねーと白のバーテン服がいるようなところへ。
 ドアを開け、一歩踏み入れると、いわゆるバーテンダー(漫画)みたいな感じかと思いきや、テレビもついているふかふかの椅子のクラシックな喫茶店ふうだったり、年とった普通の親子でも気取らず行けそうな、特に暗がりでもない、でもカジュアルとは形容しないバー。
 たまたまかもしれないが、パンフの写真をみて若者っぽいところを外した結果がそうなのだから、結果ずいぶんと気軽に行ける落ち着いたバーが多いんだな、という印象になる。
 例えば本をもっていっても読める明るさで、白背広のマスターが邪魔せず、一人でそんなことしてても全然浮かない静けさと適度なおしゃべりができる店ってあんまりない。


 宇都宮のバーってすごくいいんだな……。

 メニューには100種類近くのカクテルの名前、値段、材料、写真、アルコール度数がすべて載っています。親切! 分かりやすい! それは何度も通ってファミレスのように自分の好みを気軽に発見していくことにも繋がる。
 2件目も3件目も同じタイプのメニューを使っていたので、もしかしたらこの倶楽部のところに行けばどのカクテルも同じように飲めるのかも。値段も一緒だし。あ、安いんですよ。思ったよりそう高くない、というか。
 だいたいこんな感じのバーだったら2杯飲んで3千円ぐらいかな、と財布を出すところ、2杯飲んで2千円でお釣りがきた。あれ…ノーチャージ? ちゃんとした小皿料理のお通しというかアペタイザーみたいなものすら出てきたのに……(しかも美味しかった)。
本格的なスタンダードカクテルが800円ぐらい。生のフルーツカクテルあたりでも900円ぐらいだった。
 ノンアルコールカクテルも600円ぐらいであるので、飲まずとも雰囲気だけ味わうことも。

 あ、松本もバーの街ですよね。こういう共通点もうれしい。松本のバーはちょっと重厚で落ち着いた雰囲気の中にも温かみを感じさせるイメージですが、宇都宮は背伸びしないけれどカジュアルでもない。こんなバーがたくさんある街で(もちろん生のジャズが聞けるバーもある。照弘兄)、あれこれ連れまわされただろう末っ子に「キー!」となる。キー! キー! ……すてきぃー……きぃ……



3件目、「バー・フェイク」


 ここのアペタイザーのアスパラもおいしいのぅ……。栃木じゃのぅ……
 やっぱりみんな談笑しているが、酔っぱらって大きな声で話す人もいない。
 老若男女、親子連れもいて、みんな楽しそうだ。
 私たちの隣では、アラ還男性がお一人、マスターと談笑しながら飲んでいる。上下白スーツってすごいな……

「どこから来たの?」

「福岡と東京です。宇都宮……好きで」
「えー? なにもないでしょう。宇都宮なんて」

 といいつつ嬉しそうな白スーツ。

「もしかしてお坊さんですか?」

 と冗談まじりでとよかわさんが白スーツの頭(髪なし)を見つつ尋ねる。

「いいや」
「ですよねー」
「坊主じゃなくて住職」

 ……は?

 ……ええー(ぼうぜん)。とある小説のファンが二人。10年以上読んできた宇都宮僧侶の故郷(??)を感じたいなぁと訪れたバーで、本物の宇都宮僧侶とあうなんて……ないだろう。
 もちろん、(特に確認しあっていないが)私たちはお互い最初半分ぐらい信じていなかった(だろう)。

 しかし話の内容からしてどうやら本物らしい。

「……こういうのって、本当はもう少しキャーッ!?てはしゃいでもいいですよね……」
「……ですねー」
 でもなんかこういうこともあるんだろうなぁって半分ぐらい納得している自分たちもいる。ミラだしね……。
「えっ、あー、そうなんですか……私たち、二人とも寺…とか好きで……」
 と控えめに好意(???)を伝える私たちがたいへんうれしかったようで宇都宮僧侶はお酒を奢ってくれました。
 シャンパンをボトルで。み、宮っこ僧侶め!
 思わぬできごとにびっくりしてホテルに帰り、翌朝、先に帰っていたあまねさんに「宇都宮の坊さんにお酒を奢ってもらった……と思う」夢……じゃないと思う。と言って、「え?」と混乱させました。


 最後にお土産紹介。




いちごパスタ&いちごカレー

 フィットチーネのいちごパスタ。いちごソースがついています。あえて食べると……なんと言えば?
 気持ちはいちご100%です。けしてまずくはない。パスタというよりイチゴハイチュウって感じ。
 おそらくほとんどの人が食べたことのないパスタの味がします。
 それに対して1%もいちごの味がしなかったカレー。




宇都宮のコーヒー屋さんのドリップパック。

 くまもん並みにいろんな商品に宇都宮愉快シールが貼られています。
 あとバッチ。売上金は東北の被災地に送られます。う!




宇都宮銘菓チャット。

 菓子屋の名前は「うさぎや」というのもかわいい。
 モダンですごくいいデザインのパッケージですね、と言っていたら
 なんとチャットという商品名とパッケージのデザイン案、相田みつをによるものだそう。(!)
 栃木出身のみつを……こんなことを。1960年代に発売されたらしいが、「チャットというのは楽しいおしゃべり」という説明に
「チャットってあのチャットか!!」
 と再び驚いたのはいうまでもない。みつを……先取りだ。

 福岡に帰り、荷物をほどいて洗濯機をまわしていると、同じマンションの3階上に住む坊さんから「飲もうよう。一人じゃ寂しいよう」というなんとも甘えたメールが入ってくる。出かけていくとゴルフ帰りの格好の、ここにも生臭坊主が。
 栃木土産を渡すと「うちの本山は栃木だ」という。ああ、ゴルフ用品にかけるお金が全国一位の…。

「もう一度行きたいですね。宇都宮
「夏は暑いし冬は寒いから、秋ぐらいに修行行く?」

 うん……いえ……そこまで一足飛びは望んでなかったが。
 でもおもしろそうなのでいずれか行きたいとも思う。
 ここをご覧になったみなさんも宇都宮はぜひ行ってほしいです。できれば二人以上で。
 どこを見る、というのがないので、心になにかひっかかったものを言葉にしてくれる人がいるとすごく助かります。
 推理ゲームみたい。これってこんなことだったのか! と。
 真実が一つじゃないのでいろんな意見を聞けるととっても嬉しい。
 宇都宮から持ち帰ったアスパラは、皮が薄く茎が太くてとてもやわらかい味がした。





(終)

ツアレポTOP
←1
2013.1020 青舟